大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和45年(行コ)5号 判決

熊本市清水町高平一、一九〇番地

控訴人

株式会社弘乳舎

右代表者代表取締役

光永立身

右訴訟代理人弁護士

塚本安平

同市二の丸一番四号

旧熊本税務署長事務承継者

被控訴人

熊本西税務署長

谷脇鷹士

右指定代理人

小沢義彦

山本秀雄

木上勝美

浜田岩雄

右当事者間の物品税の更正処分等の取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、本件控訴を棄却する。

二、控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四二年一月一〇日付でなした昭和三九年二月分から昭和四一年一〇月分までの物品税の更正処分並びに無申告加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分は、これを取消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加、補充するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここに、これを引用する。

控訴人は、次のとおり付加して陳述した。

一、被控訴人の事務被承継者である熊本税務署長が昭和四二年一月一〇日付でなした、原判決添付別表1記載のごとき物品税の更正処分並びに無申告加算税及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、単に本件課税処分という。)は、控訴人が昭和三九年二月より昭和四一年一〇月までの間に製造移出した「ミルクコーヒー原液」(以下、単に「ミルクコーヒー原液」または本件「ミルクコーヒー原液」という。)が物品税法第一条別表第二種の物品第一七号品目2(昭和四一年法律第三四号による改正前にあつては、改正前の同法第一条別表第二種の物品第四類第四一号品目は、以下この括孤内の記載は省略する。その他の品目の場合も、これにならう。)に定める「コーヒーシロツプ」に該当するとしてなされたものであるところ、かりに、「ミルクコーヒー原液」が右第一七号品目1ないし3に掲げるし好飲料であつて、不課税物品でないとしても、それは「コーヒーシロツプ」に該るものではなく、その含有する乳固型分または無脂乳固形分の全重量に対する重量比によつては非課税物品となる。右第一七号品目3の「固形ラムネ粉末ジユースその他溶解してし好飲料に供する固形、粉末及びねり状のもの」のうち「ねり状のもの」と認むべきである。

二、本件「ミルクコーヒー原液」が「ねり状のもの」に該当することは、次の諸点にてらして明らかである。

(一)  本件課税処分の課税対象たる前記期間に適用されていた物品税法基本通達においては、右第一七号品目3に関する定義として、同通達別表第四五(19)に、「溶解して飲料に供する固型、粉末及びねり状のもの」とは、「溶解した状態が課税物品表第二種第四五号イからハまでに掲げるし好飲料と同様になるものをいい、粉末状のミルクコーヒー、ミルクココア等は含まないものとして取り扱うこと 」と規定されていた。なお、右にいう課税物品表第二種第四五号イからハまでに掲げるし好飲料とは、昭和三七年政令第九九号物品税法施行令制定による改正前の物品税法施行規則(昭和一五年勅令第一五〇号。ただし、昭和三四年政令第一四四号による改正後のもの。以下、単に旧物品税法施行規則という。)別表第二種戊類第四五号イからハまでを指称したものであつて、いずれも、その粘性は低度であり、容器を傾けた場合、あたかも水と同様の状態で流出する性状をそなえている。

しかして、本件「ミルクコーヒー原液」が「ねり状のもの」に該当するか否かについては、かような基本通達及び旧物品税法施行規則の定義規定をも参酌して決すべきことは、事理の当然であるところ、本件「ミルクコーヒー原液」は、これをき釈すれば旧物品税法施行規則別表課税物品表第二種戊類第四五号イないしハと同様のし好飲料となるものであるから、「ねり状のもの」に該るというべきである。

(二)  「コーヒーシロツプ」は、いわゆる「シロツプ」なるものの性質上、水を注ぐだけでたやすくき釈され、直ちに飲料に供しうべきものであることが当然予期されているところ、本件「ミルクコーヒー原液」は、これに水を注いでも容易にき釈されず、かなり攪拌しなければ飲用に供しえないものであつて、固型ジユース、粉末ジユースなど固型及び粉末状のものであつても瞬時に溶解するものがあることと対比すると、粘度はかなり高いといわざるをえず、従つて、これを「ねり状のもの」と目するのが相当であつて、「コーヒーシロツプ」には該らない。

(三)  通常市販されているれん乳は、社会通念上ねり状の飲料類として観念されているところ、本件「ミルクコーヒー原液」は、その外観及び組織上れん乳に近似し、むしろ、れん乳と比較して牛乳成分が多く、粘度も高い物品であるから、これが「ねり状のもの」に該当することは明らかである。

三、そうであるならば、本件「ミルクコーヒー原液」は、その含有する乳固型分の全重量に対する重量比が一〇〇分の八〇を超えているのであるから、物品税法第九条、同法施行令第六条、別表第一第二種の物品第一七号品目3非課税物品欄により、当然非課税物品となるものである。

被控訴代理人は、次のとおり付加して陳述した。

一、本件「ミルクコーヒー原液」は、「コーヒーシロツプ」(物品税法第一条別表第二種の物品第一七号品目2)に該当し、これが不課税物品でないのはもちろん、その含有する乳固型分または無脂乳固型分の全重量に対する重量比によつては非課税物品となる「ねり状のもの」(右第一七号品目3)には該らない。

二、本件「ミルクコーヒー原液」が「ねり状のもの」に該当しないことは、次の諸点にてらして明らかである。

(一)  「コーヒーシロツプ」は、その名称どおり「シロツプ」の一種であるが、「シロツプ」とは、社会通念上、濃度の高い糖液、つまり、濃度の高い液状のものを指称するものと観念されるところ、本件「ミルクコーヒー原液」は、その収容容器を傾斜した場合自然に流出するもの、すなわち、液状を呈しているものであつて、九ないし一〇倍にき釈して飲用に供する濃度を有しているから、その性状はまさに「シロツプ」に該当する。

(二)  物品税法施行令別表第一第二種の物品第一七号品目1「果実水及び果実みつ並びにこれらに類するもの」の定義欄をみると、社会通念上液状のものと観念される「果実水」及び「果実みつ」を定義して、それぞれ、「果実水とは、果実の搾汁(これを濃縮したものを含む。以下この号において同じ。)または果実の搾汁に水その他の物品を加えた飲料で、通常き釈しないで飲用に供するものをいう。」及び「果実みつとは、果実の搾汁に甘味料その他の物品を加えた飲料で、通常き釈して飲用に供するものをいう。」と規定し、濃度をうすめることをあらわすため、液状としての性状にふさわしい「き釈」の文言を用いているのに対し、右第一七号品目3の品目欄では「固型ラムネ、粉末ジユースその他溶解してし好飲料に供する固型、粉末及びねり状のもの」と表現し、濃度をうすめることをあらわすため、これらの物品の性状にふさわしい「溶解」なる文言を用いている。しかして、本件「ミルクコーヒー原液」の前叙したような性状にてらせば、「き釈して飲用に供するもの」というべきであつて「溶解してし好飲料に供する」といつたごときものではない。

また、同表の課税最低限を規定する金額欄の表現をみても、社会通念上液状のものと目される品目1「果実水及び果実みつ並びにこれらに類するもの」及び品目2「コーヒーシロツプ及び紅茶シロツプ並びにこれらに類するもの」については、一〇〇ミリリツトルにつき二二円または七円(その含有する標準糖度の多寡により区別する。」と規定しているのに対し、品目3の「固型ラムネ、粉末ジユースその他溶解してし好飲料に供する固型、粉末及びねり状のもの」の場合には、一キログラムにつき四二〇円と規定して、それぞれ、その物品の性状に応じて「収容容積」または「収容重量」に区分して取扱つているのである。しかるに、本件「ミルクコーヒー原液」については、その容器のラベルに「コーヒー原液」と表示し、かつ、収容容積(リツトル)を標準として価格が付されているのであるから、品目3の「ねり状のもの」に該当しないことは明らかである。

(三)  なお、控訴人は、本件「ミルクコーヒー原液」が市販のれん乳より粘度が高いと主張しているけれども、乳及び乳製品の成分規格等に関する厚生省令によるとれん乳の成分規格は、加糖れん乳の場合で水分二七パーセント以下、加糖脱脂れん乳の場合で水分二九パーセント以下と定められているところ、本件「ミルクコーヒー原液」の含有水分は三〇パーセント以上であるから、本件「ミルクコーヒー原液」は、れん乳よりも水分が多く、従つて粘度が低いものであり、れん乳との成分比較から本件「ミルクコーヒー原液」を「ねり状のもの」ということはできない。

三、そうすると、本件「ミルクコーヒー原液」は、物品税法第一条別表第二種の物品第一七号品目2「コーヒーシロツプ及び紅茶シロツプ並びにこれらに類するもの」のうち「コーヒーシロツプ」に該当するから、その含有する乳固型分または無脂乳固型分の全重量に対する重量比がどのようであれ、非課税物品となるものではない。

立証として、新たに、控訴代理人は、甲第三及び第四号証の各一、二、同第五号証の一ないし五、同第六号証を提出し、当審証人下村正己、同阿坂憲一郎及び同町原籌夫(第一、二回)の各証言並びに当審における検証の結果を援用し、後記乙号各証の成立を認めた。被控訴代理人は、乙第六号証、同第七号証の一、二を提出し、証人野村男次の証言を援用し、甲第三号証の一、二、同第四号証の二及び同第五号証一の成立は知らない。同第四号証の一のうち、郵便官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分は知らない、その余の甲号各証の成立を認める、と述べた。

理由

一、当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を参酌してもなお、控訴人の本訴請求は失当であつてこれが排斥を免れないものと判断するのであるが、その理由とするところは、次に付加訂正するほか、原判決理由の説示するとおりであるから、ここに、これを引用する。

(一)  当審証人野村男次、同下村正己及び同町原籌夫(第一回)の各証言(ただし当審証人下村正己及び同町原籌夫のそれについては、後記措信しない部分を除く。)は、右に引用した。原判決が本件「ミルクコーヒー原液」の成分割合、性状及び特性等について認定したところ(原判決七枚目表一三行目から同八枚目表二行目まで。)に資するものであり、当審証人下村正己及び同町原籌夫(第一回)の各証言のうち、右認定とそぐわない、本件「ミルクコーヒー原液」がしやし的な用途に用いられるし好飲料としてよりも滋養及び保建食品としての性格が濃いと結論づけている部分は、その根拠が薄弱であり、右認定に供した各証拠と対比してたやすく採ることができなく、また、当審における検証の結果は、製造後すでに数年を経過していわゆる濃厚化現象を惹起した本件「ミルクコーヒー原液」の製品を対象として行なわれたものであるから、自然その証拠価値は限られたものと評価せざるをえず、当審証人町原籌夫の証言(第二回)及び同証言により真正に成立したものと認めうる甲第五号証の一、成立に争いのない同号証の二ないし五並びに当審証人阿坂憲一郎の証言をもつてしては、いまだ右認定を動かすに足らない。その他、同認定を覆えすべき適切な証拠は存在しない。

(二)  ところで、控訴人は、本件「ミルクコーヒー原液」が物品税法上課税対象とされる同法第一条別表第二種の物品第一七号所定のし好飲料であるとしても、同号品目3に定める「ねり状のもの」に該当する旨るる主張しているので、以下、この点について補充して考察する。

(1)  先ず、控訴人は、本件「ミルクコーヒー原液」が「ねり状のもの」に該るか否かに関しては、旧物品税法施行規則や物品税法基本通達の定義規定を参酌して判断すべきである旨主張している。

もとより、物品税法別表に用いられている用語の定義や同法の適用については、同法の明文上物品税法施行令の定めるところに委ねられているけれども(物品税法別表課税物品表の適用に関する通則五参照)、同令の規定が完備していない事柄はもちろん、同令に一応定義規定や適用準則が定められている事柄であつても、これが解釈に際しては、旧物品税法施行規則等関係法令類との関連をも考慮にいれるべきことは、いうまでもないところである。また、控訴人主張の物品税法基本通達に関しては、元来抽象的、技術的かつ固定的とならざるをえない租税法規の意味内容を明らかにし、税務行政庁部内の解釈、運用を実際上統一しようというものであるから(いわゆる取扱通達については、しばらくおく。)、それが正しい法解釈として一般の法的確信にまで高められたような場合は格別、そうでないかぎり、裁判所や納税者がこれによつて何らの拘束をも受けるいわれはないけれども、一つの解釈態度を提示したものとしてならば、これが充分顧慮さるべきであることも当然の事理に属する。そして、旧物品税法施行規則や同法基本通達に控訴人主張のとおりの各規定が存することは、ここに指摘するまでもないところである。

しかしながら、他方、物品税法施行令別表第一第二種の物品第一七号品目1の定義欄をみると、社会通念上液状のものと観念される「果実水」及び「果実みつ」を定義して、それぞれ、被控訴人主張のとおりの規定をおき、濃度をうすめることをあらわすために、液状としての性状にふさわしい「き釈」なる文言を用いているところ、これに対し、右第一七号品目3の品目欄(物品税法別表第二種の物品第一七号品目3の品目欄も同じ。)では、やはり被控訴人主張のとおりの規定をおいて、濃度をうすめることをあらわすために、固型もしくは粉末の性状にふさわしい「溶解」なる文言を用いており、また、右施行令別表第一の課税最低限を規定する金額欄の表現をみても、右品目1及び2については、収容容積(ミリリツトル)を基準として最低限の金額を定めているのに対して、品目3については、収容重量(キログラム)を基準として最低限の金額を定めているのであつて、すなわち、社会通念上液状のものと観念される品目1及び2と、控訴人がるるその適用を主張する品目3とは、それぞれ、その使用する用語や規制の方法を異別にしているのである。

しかるに、本件「ミルクコーヒー原液」が、通常の状態においては、常温で収容された容器を傾けた場合自然に流出する程度の粘度を有し、九ないし一〇倍にき釈して飲用に供するものであることは、さきに認定したとおり(前記引用した原判決七枚目裏)一行目から一三行目まで。)であるうえ、さらに、成立に争いのない乙第一号証、同第三号証の一ないし三及び同第四号証並びに原審証人町原敦夫の証言によると、本件「ミルクコーヒー原液」は、一八リツトル入りの容器に入れて販売、移出されているものであるところ、右容器は、縦長の角罐であつて、その上部の一角に開口栓があり、この栓をとりはずし、これを傾斜させて中味を流出させる構造となつており、かつ、そのラベルには「コーヒー原液」と表示するとともに、控訴人の用いている定価表には、本件「ミルクコーヒー原液」を「原液の部」に登載し、収容容積である一八リツトルあたりの価格を付して販売、移出していることが認められる。この認定に反する証拠は何もない。

そうすると、控訴人は、その会社内部において、本件「ミルクコーヒー原液」につき、「液」なる名称を用い、かつ、収容容積を基準として価格を定めるのがふさわしい性状のものとして取扱つていたものと推認せざるをえないわけであつて、かような、本件「ミルクコーヒー原液」の性状や控訴人の会社内部における取り扱いなどに徴すれば、これが物品税法第一条別表第二種の物品第一七号品目3に「固型、粉末」と並べて規定してある「ねり状のもの」に該るとすることには、やはり無理があるというべく、すなわち、本件「ミルクコーヒー原液」は、液状のし好飲料であつて、すでにみたごとくコーヒーの特性を保有しているところから(前記引用した原判決七枚目裏四行目から一一行目まで)、同号品目2の「コーヒーシロツプ」に該当するもの、と認めるのが相当である。

控訴人主張にかかる、旧物品税法施行規則及び物品税法基本通達の諸規定も、叙上説示してきたところとてい触するものでないことは、その規定自体に徴して明らかであり、これらの諸規定があるからといつて、本件「ミルクコーヒー原液」が右第一七号品目3の「ねり状のもの」に該当すると断じがたいことは、みやすい道理である。

さすれば、控訴人の前記主張は、ひつきよう失当たるに帰し、これを採用することができない。

(2)  次に、控訴人は、本件「ミルクコーヒー原液」につき、これに水を注いでも容易にき釈されず、かなり攪拌しなければ飲用に供しえないから、その粘度はかなり高いといわざるをえず、従つて、これを「ねり状のもの」と認めるのが相当である旨主張している。

しかしながら、本件「ミルクコーヒー原液」は、通常の状態としては、常温において収容された容器を傾ければ自然に流出する程度の粘度を有するにすぎないことは、すでにみたとおりであり、しかも、前叙認定したごとき容器の形状よりすれば、これを流出させた後においても容器の内壁面に格別残し物等が残らない性質のものと推認させることに徴すれば、よしや、「き釈」の際の難易が控訴人主張のごときものであつたとしても、直ちに、本件「ミルクコーヒー原液」を目して、社会通念上液状といえないとか、むしろ「ねり状のもの」に近いとか、性急に断じえないものというべきである。

控訴人の前記主張は、採用できない。

(3)  さらに、控訴人は、本件「ミルクコーヒー原液」が、その外観及び組織上れん乳に近似しているとして、「ねり状のもの」に該当する旨主張している。

しかし、控訴人の主張する、れん乳の外観がどのようなものを想定したものであるにしても、また、本件「ミルクコーヒー原液」の組織ないし成分がれん乳と近似しているからといつて、本件「ミルクコーヒー原液」の前叙認定したごとき性状等を前提とするかぎり、これが社会通念上液状のものとして観念することの妨げとはならない。

控訴人の右主張もまた、採用できない。

してみると、本件「ミルクコーヒー原液」については、物品税法第一条別表第二種の物品第一七号品目3「ねり状のもの」には該当しないのであるから、その含有する乳固型分または無脂乳固型分の全重量に対する重量比がどのようであれ、物品税法第九条、同法施行令第六条に定める非課税物品となるものではない、といわざるをえない。

二、そうすると、原判決は相当であつて、本件控訴はその理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤秀 裁判官 麻上正信 裁判官 篠原曜彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例